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新幹線計画と弾丸列車計画の公文書

2012年07月01日 00:01

弾丸列車から新幹線へ(3)
東海道新幹線計画のはじまり

「東海道新幹線工事誌」の写真を加工。東海道新幹線開業当初の新大阪駅です。
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戦後の日本経済は朝鮮特需などにより国力が急速に回復、更なる高度経済成長を迎えようとしていました。昭和31年、国鉄は輸送量の伸張に伴い東海道線の現状を分析。その結果、昭和36、37年度には輸送力が限界に達すると予想されました。
国鉄は輸送力の行詰りの打開策を樹立するため「東海道幹線輸送増強調査会」を設置、そこでの報告に基づき昭和32年7月2日、十河総裁は運輸大臣に対して国家的観点からこの問題に対処するよう要請しました。
昭和32年8月30日、閣議決定をもって運輸省に日本国有鉄道幹線調査会が設置され、昭和33年7月に調査会から東海道新幹線建設の必要性に関する答申を運輸大臣に提出、同年12月に閣議承認され、昭和34年4月新幹線建設工事が運輸大臣によって認可されたのです。

昭和33年7月に提出された答申の公文書が残っています。
その一部を書き起こしました。
新幹線計画の始まりがここに凝縮されています。


【東海道新幹線に関する公文書】
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運輸甲第14号 
起案昭和33年7月10日
閣議昭和33年7月11日
日本国有鉄道幹線調査会の答申について(運輸省)

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鉄道第131号
昭和33年7月9日
運輸大臣 永野護
内閣総理大臣 岸信介殿

日本国有鉄道幹線調査会の答申について
諮問第1号「日本国有鉄道東海道本線及びこれに関連する主要幹線の輸送力増強並びに近代化の基本的方策」に対し、日本国有鉄道幹線調査会長から、別紙のとおり最終答申があったので、閣議に報告する。

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日本国有鉄道幹線調査会答申
昭和33年7月7日
日本国有鉄道幹線調査会 会長 大蔵公望
運輸大臣 永野護殿

日本国有鉄道幹線調査会は、昭和32年9月11日付諮問第1号「日本国有鉄道東海道本線及びこれに関連する主要幹線の輸送力増強並びに近代化の基本的方策」に関し、当局の資料及び説明に基いて慎重に審議した結果、東海道線の輸送力増強の必要性並びに緊急性については、さきに昭和32年11月22日付をもって中間的に第1次答申を行ったところであるが、爾後引続いてこれが具体化に関する問題点について審議を行い、新規路線のとるべき形態に関しては、第1分科会においてそれぞれその成案を得、これを昭和33年5月16日第7回調査会において慎重審議の結果妥当と認めたので、以上を総合して、ここに最終的に、関係資料及び議事録を添えて別紙のとおり答申する。

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(別紙)
答申
わが国の産業・経済発展の推移に鑑み、日本国有鉄道の東海道線に予想される膨大な輸送需要を最も合理的に充足するため、左記の理由並びに結論に基いて、すみやかに適切な措置を講ずる必要がある。
なお政府並びに日本国有鉄道当局においては、東海道線増強の必要性と緊急性に鑑み、早急に新規路線を建設する必要があるが、これが具体化に当り、技術的には世界最高の水準による最も近代的な交通機関として実現することを目標とするはもとより、その工事並びに完成後の運営については最高能率を発揮し得るよう画期的な方策を採用し、特に所用資金の調達に関しては日本国有鉄道の財政事情に照し方遺憾のないよう格段の措置を講じ、もってこれが建設の促進に支障を与えることのないよう要望する。
新規路線の建設はあらゆる施策に先行し、かつ、強力に推進されなければ所期の目的を達成し得ないことは明らかである。よって政府並びに日本国有鉄道の決断と努力とを重ねて要望するものである。


第一 東海道新規路線建設の必要性
一 東海道線輸送需要の推定
東海道線の輸送需要を推定すれば、最小案によっても、なお、昭和50年度においては現在に対比し旅客において約2倍、貨物において約2.3倍以上に達し、爾後更に増加するものと推定した。
二 各種交通機関の輸送計画
東海道線が負担する需要を推定するには、他の交通機関の輸送計画によって、東海道線からこれらに転換される輸送量を推定する必要があり、これを検討した結果、次の結論に達した。

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(イ)東京ー神戸間高自動車道
東京ー神戸間高自動車道は、東海道線と最も関係が大であると考えられる。従って、これに東海道線から転換する両については、中央縦貫道及び東海道高道の両案について、特に詳細に検討した。高自動車道のうち、名古屋ー神戸間については昭和37年度、東京ー名古屋間については昭和40年度にそれぞれの使用を開始するものとすれば、昭和40年度において東海道線の輸送量のうち、旅客約10~19%程度の貨物約4~5%程度の量が鉄道から転換するものと推定した。
(ロ)内航船舶
東海道における内航海運の輸送量は逐年増加しているが、戦時中及び戦後において内航海運から陸運へ貨物が転換されたため、戦前と比較すれば鉄道に対する海運の比率は低下している。しかし内航海運の復興に伴い、すでに海運へ復帰すべき貨物は概ね海運へ移行ずみであって、今後、運賃、諸掛、その他の経済事情に著しい変化がない限り、鉄道から船舶へ転換される貨物の量は考慮を要する程度には至らないものと推定した。
(ハ)航空機
航空機による輸送量は、近年その増加が著しく、将来ともその傾向は続くものと予想されるが、東海道線の輸送量に比して極めて少ないので、今後鉄道から航空機へ転換される量は、質的には若干の影響を予想されるが、絶対量の点ではほとんど考慮を要する程度に至らないものと推定した。
三 輸送の行詰りの推定
東海道線の行詰りの推定は、東海道線の輸送需要から他の交通機関への転換量を差引いた量について、国鉄5ヶ年計画完了時における輸送力をもって検討した。
国鉄5ヶ年計画における東海道線についても増強計画は、京浜、名古屋、阪神地区における線路増強及び停車場改良並びに

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車両増備等であって、長期にわたる輸送需要に対する根本的な対策ではない。
従って、前期東海道線の最小輸送需要から最大の転換量を考慮してもなおかつ、東海道線の輸送力は昭和36・7年頃において、ほぼ全線にわたって輸送の行詰りを来すものと推定した。
なお。推定にあたっては、最多客期における平均乗車効率を100%に緩和するものとし、列車回数については同一線路に種々の列車を運行する現在の方式及び線路の保守等を勘案し、概ね120回を限度としたものである。
四 結論
本調査会は、前記の審議の結果、東海道に新規路線を建設する必要があり、かつ、輸送の行詰りの時期と建設に必要な期間とを考慮するとき、これが着手は喫急の事であると認めた。

第二 新規路線の取るべき形態
一 新規路線の形態
東海道における新規路線は狭軌張付、狭軌別線及び広軌別線の3案について詳細に比較した結果、次の各項に示す理由により、広軌別線とすることが適当である。
輸送力が大であること。
到達時間が極めて早いこと。
所要資金が低廉であること。
高度に対して安全度の点で有利であること。
徹底した近代化が可能であること。
進歩した技術が利用できること。
車両の共通運用ができないことによって起きる欠点は、適当な措置によって或る程度除き得ること。
二 新規路線計画
広軌別線を実施するに当っての計画は、次の各項により措置することが妥当である。ただしこれは、現在知り得るかぎりの諸条件を前提として考えた事項であるから、開業までに更に研究を行い、新たな技術及び方策を導入するよう要望する。

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1 新規路線は広軌(軌間1.435メートル)複線とすること。
ただし、現在線と車両を共通運用することが不可能なためにおきる不便はできるだけ除くこと。
2 始終点は、東京及び大阪とすること。ただし、将来大阪以西及び東京以北へも延伸することがあることを予想して、着手までに充分調査の上、両端駅の位置を決定すること。
3 中間駅については、現在線と新規路線との総合輸送力が最大となり、また現在線との連絡地点については更に慎重に調査研究の上、実施の際に決定すること。
4 東京・大阪間の到達時分は、急行旅客において概ね3時間、貨物において概ね5時間30分を目標とすること。
5 中長距離旅客の現在線との乗換に対しては、座席の確保及び乗換設備、乗換サービスに万全を期すること。
また必要に応じて現在線にも直通列車を運転し、爾後の旅客の流れに即応するよう措置すること。
6 貨物については、ビギーバック及びコンテナー方式を積極的に採用して戸口から戸口への輸送を行い、なるべく大量の輸送を行って、現在線の負担を緩和すること。
7 動力は電気(交流)とすること。
8 線路規格については、始終点等の特別な場合のほか標準半径2.500メートル、最急勾配1000分の10とし、その他は更に調査研究の上、実施の際に決定すること。
9 工期は概ね5ヶ年で完了することを目標とすること。
第三 新規路線の所要資金、工事推進及び運営等
1 新規路線の所要資金は概ね、工事費1,725億円(内車両費100億円)であるが、これに建設期間中の利子(年7分)を合わせると1,948億円を要する。

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二 国内資金調達の可能性
建設所要資金の調達にはあらゆる努力を払う必要があるが、その額は、わが国の経済力で賄い得ないほどのものではない。
三 新規路線建設と国鉄運賃との関係
一時的に大量の資金を投入する結果、国有鉄道は、借入金等の償還に苦しむおそれのある新規路線開業後の数年間は別として、将来収支は充分償い得る。従って新規路線建設のための運賃値上は必要ないし、又行ってはならない。
四 資金調達等の具体策
所要資金の調達、新規路線の建設及び完成後の運営に当っては、本資金の調達が国民経済に対する相当の負担である点に鑑み、本資金の調達、使用及び将来の運営について、資金の最大の効率を挙げるよう最善の措置をとることを要望する。
特に次の各項に留意する要がある。
1 新規路線の資金調達について
(1)資金源としてはまず第一に、国有鉄道がなお一層の企業努力をすること及び工事計画を再検討する等によって、でき得る限り多額の資金をねん出するよう努力すること。
(2)国有鉄道のねん出する資金以外は、政府の財政投融資によらなければばらないが、その方法として
(イ)政府出資
(ロ)預金部等財政資金の融資
等があるが、新規路線開業後の国有鉄道の総合収支バランスの困難を救うため、この際は相当の政府出資を行うとともに、貸付金及び鉄道債については、据置期間及び償還期限を長期のものとすることが望ましい。
なお、政府出資についてはこの分に限り、なるべく早期に一般金利程度の政府納付金(配当金に当る。)をすることも研究する要がある。
(3)外資については、新規路線の建設を促進するためには最も有効な手段であると認められるが、その実現には種々困

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難な問題が予想されるので、更に慎重に研究する要がある。
(4)民間資金による鉄道債の引受については、財政資金による調達資金が不足する場合に限り、これに依存することを可とすると認めた。この場合には、財政資金の投融資条件について更に格段の配慮が望ましい。
2 新規路線の工事推進について
(1)工期の延伸は、資金の効率上不経済となるから、所定の工期が伸びないよう万全の措置をとること。
(2)本工事は、比較的短期間の一時的な大工事であるから、従来の方法によっては建設所要人員を大量に必要とし、将来の運営に大きな負担を及ぼす恐れがあるので、国有鉄道部内の制度、執務方法については努めて斬新は方策をとることは勿論、部外の技術力もできるだけ活用する等の方法によって高能率を発揮させ、建設所要人員を極力少なくするよう努力すること。
3 新規路線の運営について
(1)新規路線は技術的には世界最高の水準を採用し、業務、人事管理、その他の面においても極力合理化を実施して、高能率を発揮するように努力すること。
(2)投資効果の判定に資するため、新規路線の収支を部外に対して明らかにするよう工夫すること。
(3)国有鉄道の部内組織についても、新規路線の収支全体について責任の所在を明らかにするよう工夫すること。
4 新規路線の運賃及び料金について
(1)旅客運賃は、新規路線が現在線と総合一体の施設であることに鑑み、新規路線の各駅相互間のキロ程がこれと対応する現在線のそれに比べて多少の相違があるとしても、現在線の駅相互間における運賃と同額とすること。
(2)急行料金は、新規路線の到達時分が著しく短縮される点に鑑み、ある程度増額することを適当と認めるが、その額は、旅客が現在線から新規路線に転移可能な範囲内にとどめること。

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(3)貨物運賃は、旅客運賃の場合と同様に運賃実額を現在線の運賃と同額にすることは当然であるが、更に新規路線への転移を奨励するため、ピギーバックの料金等を含め戸口から戸口への総合した荷主負担額が、現在線を利用する場合より増加しないよう工夫すること。
以上

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日本国有鉄道幹線調査会の答申要旨
昭和33年7月10日
運輸省

昨年8月30日の閣議決定にもとずき、運輸省に設置された、日本国有鉄道幹線調査会は、「日本国有鉄道の東海道本線及びこれに関連する主要幹線の輸送力増強並びに輸送の近代化に関する事項を調査、審議していたが、去る7月7日その最終答申を行った。要旨は、次のとおりである。
一、東海道本線の輸送需要は、他の交通機関への転換を考慮してもなお昭和36、7年頃において、全線にわたってその輸送力を上廻り行詰りの時期と建設の工期とを考慮するとき、新規路線建設の着手は喫緊の事である。(昨年11月中間答申・閣議報告済)
二、新規路線の形態は、輸送力が大であること。所要資金が低廉であること。高度に対し安全の点の有利であること。徹底した近代化が可能であること等の利点から広軌(1米435)複線とすること。
三、新規路線の工事費は約1,725億円(内車両費100億円)を要す。工期は5ヶ年完了を目標とすること。
四、国有鉄道は、新規路線開業後の数年は別として、将来収支は充分償い得る。従って新規路線建設のための運賃値上げは必要ないと認めた。
以上


(※書き起こしによる誤字があるかもしれません。ご了承ください。)
(参考サイト)『国立公文書館デジタルアーカイブ



【弾丸列車に関する公文書】
東海道新幹線の構想および計画が短期間で決定されたのは、戦前に東京ー下関間弾丸列車計画における検討の蓄積があったからです。それについての公文書もありました。
昭和15年8月7日の「鉄道幹線調査会官制ヲ廃止ス」に関する公文書の一部です。

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昭和15年7月31日
鉄道大臣請議鉄道幹線調査会廃止の件

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東海道本線及山陽本線に於ける国有鉄道の輸送力拡充方策に関する答申
東海道本線及山陽本線の輸送力拡充方策としては東京下関間に線路増設の要あるものと認め其の具体的事項に関し左の如く決議せり
一 増設線路は現在線に並行することを要せざること。
二 増設線路は之を複線とすること。
三 増設線路に於ては長距離高度の列車を集中運転することとし貨物列車運転のため高度運転を阻害せざること。
四 増設線路の軌幅は1435ミリメートルとすること。
五 前二号に関する工事中の過渡的措置に就ては随時具体的の調査研究を要するを以て之を当局の善処に俟つこと。
六 増設線路及建造物の規格は之を鮮満の幹線鉄道と同等若は夫以上のものとすること。

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希望決議
一 増設線路に於ては東京大阪間四時間半東京下関間九時間運転を目標とすること
二 本計画は物資及労務動員計画に重大なる関係ありと思料するを以て此の点に就き充分なる考慮を払い且に之が実現を期すること。
以上

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東海道本線及山陽本線に依る旅客貨物の輸送量は逐年増加し来れる処支那事変勃発以来其の増加の趨勢他の線路に比し顕著なるものあり、現在の施設を以てしては本線路に於ける国有鉄道の輸送力は近く其の限度に達すべきを予想せらるるを以て其の輸送力拡充に関しに之が対策を樹立する為鉄道幹線調査会を設置したるものにして昭和十四年七月二十日同調査会に対して鉄道大臣の発したる詰問第一号「東海道本線及山陽本線に於ける国有鉄道の輸送力拡充方策如何」に関し本会議を開催すること四回、特別委員会は十二回之を招集して慎重審議を重ねたる結果昭和十四年十一月十六日東京下関間に広軌(軌幅一四三五ミリメートル)

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複線の新幹線を増設するの必要ある旨答申ありたり右の故を以て鉄道幹線調査会は其の一存置の必要無きに至りたるを以て之を廃止せんとするものなり


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